甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「えっ? 店ってなんですか?」
「えっ? あれ?」と少し考えた顔をしてから、「聞き間違いか? そうだ、聞き間違いだな。酔ってたからな。うんうん」と自分に言い聞かすように呟き立ち去ろうとするので、今度は立場逆転となる。
「待って下さい。あの……秋田に帰りたいのは少し聞いてたんですけど、店ってなんですか? あ、いずれ聞く話だろうから言ってもらって構いません」
言い切ると観念したのか
「……まあ、そうだよな。俺も華から軽く聞いただけだから、詳しくわからないけど。
顕人の家で貸してた店舗があったんだけど、来年で店たたむから、空くことになったらしい。そしたら昔、顕人が会社辞めて飲食店とかやりたいとか言ってた事を兄貴が覚えてたみたいで、店やらないかって連絡があったって聞いたよ」
「へえ」
「だから、華も色々経営の事で聞かれたとか言ってたな」
「……それって、昔からの夢とか、そういうものだったりするんですか?」
さあと小首を傾げてから
「知らない。まあ、昔からだろうが、今なんとなくしたいと感じた事だろうが、顕人のしたい事には変わりないんじゃないの」
「そうですね」
どっちにしろ、顕の中では帰る事は決まっていたんだ。そこでたまたま私と付き合うということが起こってしまっただけで。
顕も自分もこの会社でずっと働いていくような気がしていた私には、確かに言いづらいし、少し悩ませているのかもしれないと胸も痛んだ。