甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「まあ、あいつが地元に帰るかどうか知らないけど、今度は幸せにしてやってくれよ」
と軽々しく言って立ち去ろうとするので、顕の気持ちも知らないでと怒りがこみ上げてきて、気づいたら口走っていた。

「今度はって何ですか?」
「………」
「あなたが壊したんじゃないですか? 過去のことをどうこう言うつもりはないですけど、ぶち壊した張本人に幸せにしてやれなんて言われたくないです」
「は? ぶち壊した?」とふり返る。
「天野先生が、婚約破棄の原因だったって聞きましたよ」

言ってから青ざめる。余計なことを話していると自覚した。だけど抑えられなかった。

「す、すみません。今の聞かなかったことにして下さい」

天野先生は少し放心しているようで、宙を見ていた。
呼び掛けると、目が合い
「涙ぐんで言うなんて、本当に俺のこと怒ってるってことだよね」
穏やかに述べる。
私は、慌てて、手の甲で拭った。

彼は腰に手をあて、小さな息を吐いてから「さすがあいつだな。しかし、こんなところで言われるとは」と笑った。
「何がおかしいんですか?」
「顕人の言うことは全部デタラメだよ」
「彼が私に嘘を吐く必要ないと思うんですけど」
「君に嘘を吐いたんじゃないよ。顕人が嘘を吐かれてただけ」

そう言うと、今度は何かを諦めたような深い溜め息を吐いて「座って話そうか」とだけ言った。
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