甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
間隔を空けて、長椅子に浅く座った。
天野先生は、先ほどから持っていた缶コーヒーを「飲む?」と差し出したけど「いいえ」と首を振った。
「俺も知らなかったんだよ。萌花が俺を悪者にしてたこと」
「萌花さん?」
「ああ。顕人の元婚約者の名前ね」
「萌花さん」と無意識に反芻していた。
「俺がアメリカに行ってたのもあって、萌花の病気のことは全然知らなかった。
そもそも何年も連絡なんかとってなかったしな。
帰国してから、華から亡くなった事を知らされた位だし」
プシュとプルタブを開け、手もとをそのまま見つめる。
「華から、俺には本当の事を打ち明けときたいって言われて聞かされたんだ。
萌花の余命があまりない事がわかったとき、顕人と別れることを選んだらしい。
人生長いだろうし、顕人は顕人で幸せになってほしいからとか、そんな感じの理由だそうだ。
華がそれを知ったのは、二人が別れてからだいぶ後だったみたいで、止められなかったって悔やんでたな。
それでだ。
なぜか知らないけど、別れる理由に俺と再会して付き合うことにしたとか、そんな嘘を吐いてしまったらしい。
リアルな感じにしたかったのかもしれないけど、俺じゃなくても、もっと適当な嘘があるだろって思ったよ」
「………」
「それが真実」と、私に顔を向けた。