甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
参ったなと言う天野先生の顔は、困ったような、でもどこかほっとしたような表情にも見えた。
「確かに、このことを俺自身が君に言ったのは、心苦しさから抜け出したかったのもあるかもな。顕人にもしかしたら、真実を伝えてくれるかもって気持ちがあったかとも思う。
ただ知りたいと思って聞いたことって、代償がつくものだよね」
見つめられて、何も言い返せない。
確かに、気になってこの椅子に座り、彼の話を聞くのを選んだのは私だ。
「言いませんよ」
「うん」
「私は、顕に絶対、このことは言いませんから」
「うん。それでいいと思う」
そう言うと先生のPHSが鳴り、「ごめん。そろそろ戻らないと。あ、ごめん、これあげる」
持っていた缶コーヒーを手渡され
「えっ、いらないです」
「あ、じゃあ、捨てていいから」
「いや」
足早で去っていく背中を見ながら「押しつけないで、自分で捨てて下さいよ」と、力なく呟いた。