甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

先にお風呂をすませた。なんだか落ち着かなくて、寝室で待つ間、クローゼットから取り出した結婚式用のドレスをベッドの上に並べて見比べていた。

「やっぱり、買い替えようかなぁ」

独り言を呟いていると、顕が入ってきて
「それか? さっき言ってたの?」
と、問いかけた。

「ねえ、どっちがいいかな?」と二着手に持ちかざす。
「右」
「右かぁ。でも左のドレス一回しか着てないから、着たい気もするんだよね。
でもやっぱり新しいドレス買おうかな。どうしようかな」
「どっちも真唯子が着れば、可愛いよ」
真顔で言うので、耳が熱くなる。
「って言うと照れるのか。単純だな」
「うわ、ムカつく」と言い返しそっぽを向くと、後ろからギュッと抱きしめられ、火照った温度が伝わってくる。

「あっ、ドレスが皺になるからしまってくる!」

こうしてくれるのが嬉しいのに、ズキズキ胸が痛み、腕をほどいて寝室を出た。

天野先生には、彼女のしたことがずるいから、真実を言わないなんて言ったけど、本当は『彼女は最期まであなたのこと好きだったんだよ』と言ったら、どんな顔をするのか見たくない。

ああ、違うな。誰かを思ってる顕の顔を見たくないだけだ。

やっぱり彼女の気持ちを代弁する必要はないと、自分に言い聞かせ戻った。
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