甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

扉を開けると、顕はベッドの上に腰を掛けていた。
正面から向き合い
「あのさ、ちゃんと話したい事があるんだけど」
と、切り出すと
「ああ、俺もだよ」
とゆっくりした口調で言う。頷いて、私は
「私、秋田に行くよ」
と告げた。

顕はきょとんとしたまま、私を見上げる。

「えっ?」
「えっ? って」
「いや、会社を辞める理由とか聞かないから驚いただけだ」
この前、中途半端にしか伝えられなかったから、ちゃんと話そうと思ってたと続ける。

「あっ……いや、それは今から聞こうとは思ってたよ! えっと、なんで会社辞めて、しかもなんで秋田に帰るの? 仕事だって順調だし、勿体ない気はするよ」

顕の横に座り、天野先生から聞いていたことがバレないように慌てて取り繕った。

自分の前のめり姿勢に苦笑いする。
だけど早く着いていくって言わないと、どうしてか誰かにとられてしまうような感覚が胸の中にあったのだと、遅れて自覚する。
そんな人、いないはずなのにな――。

「虚しいんだよな」と顕は呟いた。
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