甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
意外な言葉に驚いた。
「えっ?」
「仕事で成績上げても、また次の目標、次の目標って働いてることがな。
若い時はそれが楽しいとか、やる気に感じて働けてもいたんだけど、働けば働くほど、虚しさばかり感じるようになって……まあ、精神的に参るときもあったし。
で、去年の正月だったか、実家に帰ったときに、ぼそっと兄貴にそんなこと話してさ。
そしたら兄貴に仕事辞めて別の仕事するなら、何やる? って言われたんだけど、飲食店とか出したいかもなーってなんとなく言ったら、それを真に受けたというか覚えててさ。
今年になって、実家で貸してた店舗が来年空く話がでたから、やってみたらどうだって言われて」
「………」
「忘れてたけど、バイトも飲食店が多かったし、もともと細かい作業や何か作ったりすることは好きだったしな。
それに料理をしていると、なんというか心が落ち着くんだよな。そんな落ち着いた心で人を見ていると、今の仕事を通して人を見る感覚と違う優しい気持ちで見れることにも気づかされた。
そしたら、なんかそっちの方が楽な気がしたんだ。
迷ってはいたんだけど、あの日……」
と、私をすっと見つめた。