甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「真唯子が初めて家に来た日。飯食ってっただろ。
真唯子が帰った後、気づいたら兄貴に電話してて、戻って店やってみたいって言ってた」
「………」
「なんかわからないけど、自然にそう言ってる自分に驚いて、言った後、すごく心が軽くなったんだよな。
だけど、ああ、たぶん、今まで自分が信じていたことが間違ってたんだって素直に受け入れられた感じがした」

顕は思いと行動がいつも一緒で、迷いなくて、言いたいことははっきり言える人だと思っていた。本人はそんなことないって言っても。そんな自分の中のフィルターが壊れていくのがわかった。
話を聞いている自分の胸の中も、どうしてだろう、澄んでいく。

「なんだよ?」
「ううん。なんか嬉しくて」
微笑むと
「目、潤んでる」
よくわかんないところで涙ぐむよなと笑って、指先で私の下瞼に触れる。

「会社にはもう言ったの?」
「まだ言ってない。正月、向こうに帰るから、色々相談してくるつもりだ。会社には、それからと思ってた」

兄貴が自分より張り切って困っていると溜め息を吐いた。
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