甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
不吉な言葉に固まると
「ああ、ごめん。その子の場合ね。まあちゃんと結婚するって決めてからっていうか、一度、ご家族と会ってから決めてもいいんじゃないかな? なんて、今思ったりもしちゃったけど」
綾仁くんもそうだと言うように頷くと、お客さんに呼ばれて離れて行った。
「……安易ですかね。彼が好きだから着いて行くのって」
「まあわからなくもないけど、ここよりもっと田舎なんでしょ? 何かやりたいこととかないと辛いこともあるかもしれないよね。仕事だって少なそうだしねー」
確かにこれといった趣味もなく仕事一筋で生きてきた20代。環境の変化に着いて行けるか問われると少し自信がない部分もある。
「まあ……勢いで答えてしまった部分もあったかもしれないです。ちょっと焦ってたところ、今、思うとありましたし」
潔く認める。
「焦ってた?」
「あ、はい。あの……萌花さんの話、天野先生から聞いてしまって」
「萌花? え、天野先生って、あいつとも知り合いだったんだ」
「はい。それで、偶然会ったときに教えてもらったんです。
その……顕に嘘ついて別れたこと。
それを聞いたら、すごい自分勝手なひどい人だって思ってしまって。
でもそういう人のことを彼は好きだったんだなぁ。もしかしたら、私よりもずっととか、なんか色々考えてしまって。
誰もとらないのに、いないはずの彼女にとられてしまうような気がして。この真実がばれる前に決めておきたいみたいな……今、思うとすごく独りよがりでしたけど」
言いながら、そんな事を考えていたのだと自覚していく。