甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「そのこと矢嶋くんに言ったの? その……萌花が嘘ついて別れたってこと」
ゆっくり首を振り
「意地でも言わないって思っちゃって、言ってません」と答えると吹き出して笑った。
「小千谷ちゃん、負けず嫌いなんだね」

「負けず嫌いっていうか。なんか……そのときは許せなかったんです。綺麗事言ってとか、悪者になるつもなりなら、誰にも真実なんて話さないでよとか。とりあえず、ひどい人だとしか思えなくて。でも、冷静になった今は、それを責めてる自分もおかしかったなって気はしてます」
「……そっか」

頷くと、綾仁くんが「いらっしゃいませ」と入り口の方へ向かって行った。

何気なくそちらを見ると天野先生がいて、カウンターに近づくと
「あれ? 顕人の彼女」と立ち止まる。
「小千谷です」と答える。
「あ、そうだ。小千谷ちゃん。偶然だね」
私の隣の席に荷物を置いた。

「今、天野の話題が出てたとこだったよ。タイミング良すぎなんですけど」と華さんが言う。
天野先生は、巻いていたマフラーを外すけど、すぐここに顕と若槻が来ることを思い出し、慌てて立ち上がった。
「ごめん、綾仁くん、お会計お願い」
「え? 帰るんですか?」と驚かれた。
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