甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

ちょっとホッとした。頭を冷やしたくなった。
何をキュンキュンしている。こんなときにと自分を戒めたくなった。
俯いていた顔を上げると、青空が視界いっぱいに広がる。
上下してた呼吸が落ち着くと、ようやく身体の中に静けさを取り戻した気がした。
だから、余計に、胸の痛みが気になってしまう。
背をもたれ、すっと視線を下ろしみぞおちの辺りを眺めた。

私、言葉が欲しかったのかな?
気持ちが欲しかったのかな?
それとも両方?
顕自身?
なんかおかしい。言葉じゃない。気持ちじゃない。顕じゃない。
そういうことじゃない。

「失礼ですよ」と、綾仁くんに言われた。

本当にそうだ。幸せにしますと言われても、今の私には、何を言ってもその言葉の温度のまま伝わってこない。気の迷いなんじゃないかって、思ってしまう。だって、華さんみたいに素敵じゃないし。

だけどきっと同じ言葉を顕が言ってくれたら、すんなり受け入れるだろう。だって、そうあってほしいから。だけど、そうならないんだという苦しみが湧いてくる。
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