甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

目を開けると、嘘みたいにすっきり心が晴れていた。

ゆっくり身体を起こす。みぞおちから澄んだ水が湧き上がってくるような心地よさが広がった。それがゆっくり胸や背中を駆け巡り、染み渡っていく。不思議な感覚があって、だけどどこか懐かしくて、しばらくそれを味わっていた――。

「はい、真唯子さん」
後ろから水のペットボトルを差し出され、振り返る。
「あ、ありがとう」
綾仁くんの息が、はずんでいる。
そのままベンチに座ると「シフトのことでした」と華さんからの用件を伝えた。うんと頷いた。ペットボトルの蓋を開けると、河川敷にいる子供の笑い声が優しく耳についた。

「なんかあれですね。変なタイミングで電話きちゃったと思ってたんですけど、これで良かったんだってわかりましたよ」と朗々と答えた。
綾仁くんの様子がさっぱりしているように感じて横を見ると、目があって
「真唯子さんの答えも、本当はわかってますから」と述べた。
「矢嶋さんといたいですよね」
うんと小さく頷く。けど
「なんで、〝も〟がつくの?」
疑問に感じて尋ねた。

「それが、今、コンビニで矢嶋さんに会っちゃって」と苦笑する。
水を取ろうとしたら、他の人の手が重なってしまって、横を見たらそれが矢嶋さんだったと思い出し笑いをする。私服だったから、一瞬誰かわからなくてとも。
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