甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「……そっか。そうなんだ。顕はそんな事、言ったんだね」
じんわり優しさが染み渡っていくようだ。
「ツンとして見えて、優しい人なんですね」と、言うので、そうだよと得意げに答えた。

綾仁くんは、空を少し仰いだ。
「不思議なんですけど……矢嶋さんと別れてから、僕、真唯子さんに会いたくて仕方なくなったんです」
「え?」
「この話、真唯子さんに早く聞かせてあげたいなって、気がはやってしまって。
それで僕もわかったんです。幸せにしたいって言いましたけど、そんな力ないなって。
ただ矢嶋さんと話したあと、僕、変なんですけど、すごく幸せを感じました。
それってこういうことかって、真唯子さんが幸せだと僕も幸せなだけなんだって。だから、僕も本当は、矢嶋さんと真唯子さんが一緒にいてほしかったんだって気づきました」
屈託なく笑う子供のような明るい笑顔だった。
初めて会った日にも感じた素直さが、変わらない。そんな愛を感じさせてくれる人なんだなと気づいた。

胸の中にキラキラした輝きを感じると、私は思わず涙ぐんだ。
「ありがとう」
伝えると、あっ、と綾仁くんは柔らかい顔つきになり
「僕、真唯子さんのその笑顔が見たかったんだって、わかりました」
そう言うと、顔を見合わせて笑った。
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