甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「いやー、なんか泣いちゃいましたよ」
披露宴の会場に移ると、隣の席の中村が涙ぐんでいた。
「まだ泣いてる」
「だって、なんだか胸がいっぱいで。いやー本当に美しかったなぁ」と胸に手を当てる。
「本当にね。中村が言うように、あれはリアルプリンセスだったよ」
長袖のレースが施されたスレンダーラインのウェデイングドレス姿の彼女は、古い映画に出てくるクラシカルなプリンセスのようだった。
チャペルを出て撮影をした際、風になびくベールが天使の羽根にも見えた。
「にしても、あれっすね。ブーケトスってやらないんすか?」
「ブーケトス? ああ、そういえばやらなかったね」
「いや、夢だったんすよ。結婚式で投げたブーケを受け取るって。しかも若槻さんからのブーケってすごいご利益ありそうじゃないすか」
「ご利益って、若槻は神社か。ていうか、もういいじゃん、加賀くんがいるんだからさ。ご利益なんて必要ないでしょ」
「か……からかわないで下さいよ。それとこれとは別っすよ」
「はは。そういえば最近の結婚式やらないこともあるみたいだよ。未婚女性をさらすのが失礼だとかなんとか言ってだったかな」
「まじっすか? 世知辛い世の中っすね」とよっぽど楽しみにしていたようで、溜め息を漏らした。