甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
お詫びご飯のはずが
待ち合わせをしたのは、老舗のおでん屋さんだった。
席はほぼ満席で、早めに予約をしていて良かったと安堵する。カウンターに座り先に瓶ビールを頼んで飲んでいると課長が現れた。
「また酒飲んでいやがる」
「課長がこのお店にしたのがいけないんですよ。絶対お酒飲みたくなるに決まってるじゃないですか」
羽織っていたコートをかけ私の隣に腰を落とし、軽くネクタイを緩ませる。私がコップに瓶ビールを注ぐと乾杯もせずに課長は口につけた。
鼻筋が通っているせいか、横顔が綺麗だった。
「なんだよ」
「あっ、いいえ」
「好きなの頼め」とメニューを差し出す。
「課長は?」
「オーダーが来たら頼むから気にするな」
メニューを見て悩む私とは対照的にサッと注文する課長を見ると無駄のない人に思えてならない。
そういえば課長と二人きりで食事なんて初めてだ。何を話そうかなんて考えていたのに、話題はなぜか仕事のことばかりで、社内にいるのと変わらない気がして肩が凝る。
一度沈黙になり、
「えっと、なんか楽しい話しません?」
と提案する。
「楽しい話?」
と、睨まれる。
課長にとってはこういう話が楽しい話なんだろうな。
今までの話はつまらないと言ったのと同じでまた失態を軽く犯している。