甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
防波堤を登って、遠くから海を眺めた。
「寒い」と顕は肩をすくめた。
「あはは。寒いね。でも、冬の海好きだな。連れてきてくれて、ありがとう」
「真唯子が幸せだと、俺も幸せだから、仕方ねーな」
「ふふふ」
頷いて腰をおとした。こうして沈黙している時間も、とっても愛しい。
いつかの私は、恋も人生も仕事も自分でどうにかできると思っていた。
ううん、どうにかしなければいけないと思っていた。
だけど、自分がどうにかできることなんて、本当に一握りしかない。
自分は何もできないんだと受け入れ、川の流れのように身を任せる。
握りしめた手の平を緩めば、もっと多くのものを受け取れて、ゆっくりゆっくり今を味わえるように変わる。
奇跡の連続は、その世界にしかないことを、今の私は知っているのだから。
「顕、行こうか」
そう言うと、顕は先に立ち上がり、私に手を差し伸べる。
沈んでいく太陽は、いつまでも私達を見守っていてくれるようだった。
fin.