甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「いや。仕事の話もいいんですけど、リラックスして食べたいなって。じゃあ課長、ご……ご趣味は?」
「見合いか? お前の趣味はあれだろ。酒と漫画と映画にダイエット」
「まあ間違ってませんが。課長って漫画とか読まなそうですもんね」
「漫画? 読むよ。普通に」
「え。なに読むんですか?」
「おひとりさま物語」
「えっ? 課長もそれ持ってるんですか?」
おひとり様を主人公とした1話完結のオムニバス作品で、ここ数日ハマって読んでいた
「持ってねーよ。お前の部屋にあったの読んだんだよ。この前、泊まらされたときにな、眠れなかったから」
「勝手に人のものを」
「何を言う。本を転がしておくお前が悪い。本転がしめ。本当に物を大事にしない奴だな」
って、人をふんころがしのように。でも言われていることは合っていて言い返す余地もない。
「へ……へえ、課長は何の話が良かったですか?」
「意外にどれも良かったよ。小千谷の好きな話、当ててやるか?」
「当てれるものなら」
「あれだろ銀行員の女の話。恋人と喧嘩して、ひとりで城を見に行くっていう話」
「残念ながら違います。あれが好きでした。漫画家の子が合コンにいって、のけ者にされる話。笑えた」
「ああ、あれもお前みたいだったしな」
「ぐっ。何でも嫌味で返しますね」
「相手がお前だからだろ。俺だって嫌味言わなくていい相手には言わない」
「うっ」
全ての言葉が胸に刺さる。やっぱり早く帰りたくなってきた。