甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
本当に私って人や物に対して失礼なことをしてたんだな。課長に言われたことが、風の冷たさも手伝って実感してしまう。
そういえばと思い出した。
課長の誕生日っていつだったんだろう。
今日、なわけないよね。
いくらなんでもそんな日に私とおでんを食べて終わりなわけないし。
急に誕生日を訊くのもなんかおかしいし、やっぱり言わなくていいか。
きっと、あれは誰かへのプレゼントだろうな。
誰に贈るんだろう。
そういえば、恋人の話は聞いたことがない。
同じ電車に乗り込み、私が先に降りると「足くじくなよ」と真顔で課長は言った。
課長の中で私はもう飲んだら怪我をする女になっているらしい。
駅から家に向かう道、ふとさっきの会話が脳裏に過る。
『小千谷の好きな話、当ててやるか?』
『当てれるものなら』
『あれだろ銀行員の女の話。恋人と喧嘩して、ひとりで城を見に行くっていう話』
本当は正解だった。課長にどや顔されそうだからそう伝えなかったけど。
彼氏と喧嘩をしたOLがひとりでお城に行く話はこんな感じだった。
OLの彼女は彼と付き合っていても、自分が疲れてて思いやりを持てなかった。
だけど、私さえ頑張ればうまくいくと考えていた。
いつもそう言い聞かせて結局、頑張らなかった。
本当はずっと別れたかったのに、自分が淋しいから別れられなかったんだ。
淋しくてもひとりで立てる自分になりたいと別れを決意する、そんな物語だった。
家の灯りをつけると、
「あれ?」
なんかおかしいと気づくのは、少し酔っ払っている私の頭でもわかった。