甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
何かに気づいたのか、課長は身を屈めると「これ、見覚えあるか?」と、テーブルの上にあった物を手に取り私に見せた。
男物の名刺入れだった。彼に誕生日にプレゼントしたものと同じだ。
そこではっとした。クローゼットに向かうと、この前忘れていった彼のストールがなくなっていた。
彼が取りに来たんだとそこで気づいた。慌てて郵便受けに行くと、鍵があった。
そこで頭の中が一気に整理された。
私のいないときに彼が合い鍵で家の中に入り、置いていた荷物を持っていったんだ。
そして必要のなくなった名刺入れを置いて、合い鍵を郵便受けに入れて帰った。
「終わった」
力が抜けて、そのまま三和土に座り込んでしまった。
「小千谷?」
「終わったんだ」
「良かったじゃねーか」
課長は私の一言で全てを把握したかのように言った。
「へっ?」
「別れたかったんだろ」
「……え?」
と、驚きのあまり振り返って課長を見た。
「映画や漫画を読んで失恋気分に浸らないといけないくらい、何も感情湧かなかったんだろ」
何を知った風なことを言うんですか。
そう言い返したかったのに、課長の言うことがまた図星すぎて言い返せなかった。