甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
彼と出会ったのは、私の父が胃癌で余命先刻を受けた頃だった。
母は私が大学生のときに他界しているし、それからはずっと父と二人きりで暮らしていた。
定年退職ももうすぐというところだったのに、どうしてこんなことがあるんだろうと、また家族が減るということに失望した。
その辛い時期に彼と出会い、父にも紹介した。
付き合ったばかりですぐに結婚とはいかなかったけど、将来は必ず幸せにしますと父に約束をしてくれた。それから半年程して父は亡くなった。
好きだと思っていたのに。いつからだろう。彼といると疲れを感じることが多くなったのは。
価値観なんて違って当たり前だし、相手の言う部分を全部受け入れたり理解するのは難しい。
同じことで何度も喧嘩をした。
その度、解決なんてしなくて、なんとなく仲直りして隣にいて、だけど気がつけばまた同じようなことで喧嘩をした。
彼は私が注意しても直らないからという。
だけどそれは私から見ても同じで、彼は私を責めるのを直さない。
それから、好きがわからなくなった。
彼は彼を大事に出来ない私を責めて、私は彼にあなただって同じよと責める。
そんな恋愛が楽しいわけがない。
嫉妬は信じてもらえないこと。
そういうことだと思ったのも、彼と付き合ってからだ。
別れを考えたことがある。だけど、父の顔が浮かんで止める。
結婚するって言ったから。