甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「怖いのか?」
課長は訊いた。
「え……」
喧嘩した日々を思い出す。私に手を挙げたりはしないけど、物に当たったり暴言がひどくて、精神的にきつかったって。
「怖いです。喧嘩して、別れ話なら手を出されたりするかもなんて思ったり」
モニターが暗くなって、ほっとした。帰ったのかもしれない。
「そういうタイプか。また会いに来そうだな」
「……」
「とりあえず家に一人のときはあげない方がいいかもな。別れ話するなら、外で、人のいるところにしろ」
それだけ言うと、課長は玄関へ向かった。帰ってしまうんだ。私、一人で大丈夫かな。
また来たら……そう考えるとインターフォンが鳴った。今度はエントランスからではなく、私の家のものだった。心臓がどきりとした。
「いるんだろ?」と近所迷惑な彼の声が響いて、心臓に悪い。
「課長」
「……タイミングわりーな」と、課長は呟いた。
課長にこれ以上は迷惑をかけられない。
気持ちを入れ替える。
「課長、すみません。聞き苦しいと思いますが、彼と話します。課長がいると勘違いされるので少し向こうの部屋に隠れていてもらえませんか?」と、靴を手渡した。
玄関の扉を開けると、彼が立っていた。私の好きなスーツを着て。