甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「いや、いないよ」

なんて嘘も意味なく、彼は隣の部屋へ続く扉の前へ行ってしまう。
彼がドアノブに手をかける前に扉が開き、課長が顔を出した。

「悪い。聞くつもりはなかったんだが」

「お前、誰だよ? つうか真唯子、お前、やっぱり俺のことずっと裏切ってたんだろ? もう新しい男か?」
と、私に敵意のまなざしを向ける。

そうだ。彼はいつも私が浮気をすると思っていた。
職場の人とご飯と言ってもどうせ男と食べるんだろとか、歓送迎会だって酒を飲むなよ、何が起きるかわかんないからと私に言った。

お酒を飲むのだって、同僚と話すことだって、私は好きだったし、したかったのに彼が怒るから段々と出来なくなっていったんだ。

好きなことが出来なくなっていったんだ。

「職場の上司。部屋の中がいつもと違うから泥棒が入ったと思って来てもらっただけ。関係ないから」
「お前、家に上司をあげるか。こういうこと日常的にやってたとしか思えないんだけど」
「日常的にやるわけないでしょ。私がどれだけ我慢してたか知らないでしょ? 自分がされたら嫌だからって、私がどれだけ我慢してたかわかる?」
「何それ。俺が悪いの?」
「良い悪いとかじゃないよ。私はもう自分が嫌なことはしたくない」
「彼氏が嫌だと思ってもかよ」
「……うん。もう嫌だ。あなたの為に自分が我慢するの、嫌だ」
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