甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
彼女がいたのですか

課長と彼女


「小千谷さん、なんか機嫌いいですね」
と若槻が午後のミーティングの後に私に声をかけた。

「わかる? 最近、ダイエットにはまってて」
「ダイエットにはまっていて、嬉しそうな人初めて見ましたけど」
「ダイエットはね、結果が出れば楽しいわけよ」
机の上に資料を置いて腰掛けた。若槻は軽く溜め息を吐く。

「小千谷さんってポジティブで羨ましいです。本当に」
「え? ポジティブ?」
「だって彼氏さんと別れたばっかなのに淋しくないんですか?」
「それがね、全然淋しくないっていうか……むしろ充実してるかな」
「え? 本当ですか?」
信じられないと言った顔をする。
「うん。本当に」

実際ランニングを続けてみると、意外に楽しかった。
少しずつだけど、走れる距離が長くなるのも嬉しかったし、何よりも早朝の清々しい空気に触れることや段々明るくなっていく空の下を走るのは気持ち良かった。
お陰で仕事とランニングくらいしかしていないのだけど、身も心も軽くなった気がする。

今まで私は何をしていたんだろうと別れてみると、過去の自分が別人のようにも見えてくる。
しがみつかなければ、もっと早く彼も私も生き生き過ごせていたのかな。
もう恋愛はコリゴリとは言わないけど、ああいう恋愛は二度としたくない。
だから淋しさを埋める為とか、結婚しなきゃいけないからとか、もうそんな理由から恋はしないだろうな。
そんな気がすると肩の力が抜けて、以前の自分よりゆとりが持て安心感もあった。
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