甘いだけの恋なら自分でどうにかしている



「小千谷さん、どうしたんですか? 溜め息吐いて」
その日の帰りに若槻と夕食を一緒にした。定禅寺通りに面したスタイリッシュな雰囲気のイタリアンのお店だ。

「えっ? 嘘? 吐いてた?」
「疲れたときは甘いものって言いますよね。何かデザート頼みます?」と立てかけていたメニューを手に取る。
「んー。いいかな」
「じゃあ、私はケーキを頼もうかな」と手を挙げてオーダーする。細い身体のどこにそんな大きな胃袋があるのかと疑ってしまう。
「彼氏さんとは片が付いたとか言ってましたけど、やっぱりまだ何かあったりするんですか?」
「ううん。そういうことじゃないんだけど。課長が」

どうしてか課長と話してから心がもやもやしてすっきりしないでいる。彼女なのか、そうじゃないのかもはっきり知りたかったこともあるし、
私自身課長と少し打ち解けたような気になっていた部分があるのか。
まさか関係ないと告げられたことが少し堪えているとか。
あんなに怖いと思っていたのに、不思議……でもないか。沢山お世話になったしな。信頼はしているし。
だけど課長のこととは若槻にも言いづらい。彼女がいるらしいのに、泊めたなんて口に出さないほうがいい。

「あ、課長にちょっと言われただけ」
「そうだったんですか」
「でも大丈夫。課長は悪くないし」
勝手に悪者にしてしまったことに気がついて、慌ててフォローする自分は本当に馬鹿だ。

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