甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
「あっ、いた! 小千谷さーん」
中村が弾んだ声で駆け寄ってきたが、目の前の課長に気づいて少し委縮して「お疲れ様っす」と会釈した。
「芋煮、今年もしようって話になってるんですけど、小千谷さんいけますか? 来週の土曜日の予定なんすけど」
芋煮とは一部の東北地方の秋の風物詩であり、河原などで里芋の入った豚汁のようなものを食べるものである。通称芋煮会だ。
(地域に寄っては、牛肉だったり醤油ベースだったりするのだけれど)
「ああ、大丈夫だけど」
「かかかか課長もどうすか? 芋煮」
「芋煮? ああ、なべっこ遠足か」とぼそっと呟いた。
中村と声が揃ってしまう。
「なべっこ遠足?」
「秋田ではそう言うんだよ」
課長の口からそんな可愛いトーンの言葉が出てくるのが意外過ぎて、私も中村も笑いを堪えるのに必死だ。
「お前ら、バカにしてるだろ」
「い……いいえ」と言いながらも、私たちの動揺はばっちり伝わっている。
「課長、仙台ではなべっこ遠足は芋煮会って言うんですよ」とわざと得意げに伝えてみる。
「芋煮会くらい知ってる。山形が醤油と牛だ、宮城は味噌と豚だともめることくらいな」