甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
ドクターと食事会
◇
「小千谷、頼みがあるんだが」
課長からD病院のドクターと食事に行くから同行してほしいと頼まれた。
以前、私が担当していた病院で良くしてもらった先生だったので
「三沢(ミサワ)先生とですか? 懐かしい。元気ですか?」
「小千谷の話になってな。久しぶりに顔が見たいそうだ」
「え、本当ですか? この顔を?」
冗談で言ったにも関わらず、「ああ、まったく気持ちはわからないが、この顔が見たいんだとよ」
「……課長。まあ、いいです。課長は置いといて、私も久しぶりにお会いしたいし」と快諾した。
予約していたお寿司屋さんへ行くと三沢先生も今来たところだった。
私の父親と同年代で物腰が柔らかくて、話しているとこちらも穏やかな気持ちになる。
笑顔ひとつで元気にしているのが伝わり、安心した。
「先生、お久しぶりです」
「小千谷さん、久しぶりだね」
「一年ぶりですよね。息子さん、結婚どうなりました?」
「そんな話、よく覚えているね」
「そりゃもう。先生、あのとき、会うたび、私を息子の嫁にとか言ってたじゃないですか」
カウンターに並ぶと、私を真ん中に座らせた。
懐かしい話や先生の家族の話をしている間、課長は口を挟む様子もなく、静かに耳を傾け必要なときにお酒の追加をオーダーしたりしていた。
接待は禁止だけど、ドクターと食事をするということは課長にも何か考えがあってなのかなと話しながら推測する。
確か今日はここに来る前に新薬の説明会をしてきたとか言ってたっけな。
私は何をすればいいのだろうと、課長は何も言わなかったけど、自分の役割を自然に考え始めてしまった。