甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「いや、そんな恐れ多くて無理です」
「恐れ多いってどんなキャラなの、矢嶋くん。ていうか二人で飲みにくるってことは本当は何かあったりしないの? そういう話、聞きたいな」
「ない……ないです」
「ふうん。なぁんだ」と華さんは残念がる。
そこで、課長がなんもねーけどとぼそっと呟いた。
「そういえば、キスしたな」と私に顔を向けた。
「はっ?」
「トイレ行ってくる」と課長は立ち上がり、その場に取り残されてしまった。

華さんが身を乗り出すように尋ねる。
「そうなの?」
「いや、してない。してないです。どこからそんな冗談が」
「冗談なの? タチ悪いねー。ていうか矢嶋くんのこと気になってる子、会社でいないの? 仕事ばっかりで何もないようなこと言ってたからさ」
「課長のことかっこいいって言ってる子はいましたけど、課長、あんな感じだから自分から行くっていうのは無理だと思います」
自分から課長に猛アピールできる女子はいないに等しいと思う。

「そっかぁ。まあ想像つくかな」
「あ、つきます?」
「学生のときもそんな感じだったから。好きな子にしか心開かない感じ? わかりやすいといえば、わかりやすいよね」
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