甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

「へえ。課長が心を開く」
「あ、違うか。心を開けるような相手だから好きになれたのか」
「それはそうですよね」
「だね」
お客さんに呼ばれ華さんが離れると入れ違いで綾仁くんがカウンターに入った。
「今日、忙しい?」
「少し忙しかったですけど、今は落ち着きましたね。今日はここ何軒目ですか?」
「二軒目。お客さんと食事に行ってきたんだ」
「接待ですか? なんか大人って感じですね」
「ううん、ただご飯食べて来ただけだよ」
「自分、そういう事したことないし、これからするのかな。どうだろ」
「就職はしないの?」

尋ねると少し困った顔で
「今年の冬から留学する予定なんです。あ、短期の語学留学なんですけどね。それからワーホリに行く予定だったんですけど」
「え、ワーホリ?」
「はい。だから今、バイトでお金貯めてるところなんです」
「そうなんだ」

あわよくば、またどこかに行こうよという話題に持っていこうかなんて考えていたりもしたけど、留学とかワーホリとか言われると恋愛なんて今はする気がないのではないかと思ってしまい提案できなくなってしまった。
だけど、やりたいことがあるというのに、顔が少し曇っているのが気になった。
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