甘いだけの恋なら自分でどうにかしている

深みにハマる前に気づけて良かったのかなぁ。
好きな人がいたなんて、あれこれ考えていた私は本当にバカで惨めだなぁ。
心の中で感情を棒読みすると、余計バカな存在だって意識が深まっていく。

「私って痛いな」

課長と共に歩いていたのに、つい足を止めて空を仰いでしまった。
課長に慌てて駆け寄ると
「またブサイクになってるけど」
と言われた。

「課長、私にブサイクと親父しか言わないですよね。どっちももはや女性として最悪としか言えないのですが」
「は? 親父なんか言ったことねーよ」
「ええっ。何回も言われましたよ。特に機嫌悪いとき」
「は? そんなハラスメントなこと言うか」
「……課長、もしかして素で私の名前を言い間違えていただけですか」
「は?」と考えてから「小千谷の話が本当なら、そうなるな」と言った。

「親父に見えたんだろ」
「いや。そっちのほうがなんだかショックです。小千谷と親父を言い間違うのが、ナチュラルに親父に見えたからだなんて」
抗議すると「はっ」と小さく笑った。
「なんですか、また親父に見えましたか。腹巻きしてませんからね」
「親父は腹巻きすんのかよ」
「なんとなくですけど。加トちゃんも変なおじさんもしてるから」
「お前のイメージする親父はあれなのか」
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