甘いだけの恋なら自分でどうにかしている
顕人って、課長の名前だ。
ドクターとMRというより、友達といった親しみを込めた呼び方だった。
私も中村も驚いて、振り返った。
課長は特に感激する様子もなく無表情で「ああ」とだけ言うので、中村はひぃぃと怯えだす。なんというか静かな、だけど怒りを秘めた炎を身にまとっているような威圧感があった。
そういえば、当初の私も中村はこう感じていたっけ。
臆することもなく天野先生は、課長の前まで行くと再会が嬉しいというように尋ねる。
「元気だったか。何年ぶりかな」
「さあな」
「相変わらずだな、お前」
「お前もな」
課長は素っ気ない。だけど天野先生はそのやりとりを楽しむ余裕があるようで笑みを浮かべたままだ。まさに冷戦。
その様子を見守っていると、綾仁くんが明るい声で
「あ、真唯子さん、良かったら今からドッチビーやりませんか?」と提案した。
「え? ドッチビー? 何それ?」
「フリスビーの柔らかいやつって感じかな。真唯子さん、運動あんまりっていうけど、これだったら出来るんと思うんですよ! やりませんか?」
とても楽しそうに誘うので、「いいけど、私、フリスビーも危ういかも」と言いつつ、つい乗ってしまった。