夢恋・second~その瞳に囚われて~
「彼女はどうしているの?」
「ん?誰?」
自覚がないのか、とぼけているのか。
理恵子さんの話をすると、彼が聞き返してきた。
「……いいわ。なんでもない」
よそう。無理に聞き出しても虚しさが襲うだけだ。
「さっきから言いかけてはやめるよね。彼女なんていないよ。そんな人がいたら今、こうして芹香といない。そんなことを気にしていたのか」
運転しながら、正面を向いたまま笑う拓哉を責めたりはしない。
私も同罪だ。
こうして理恵子さんを裏切っているのだから。
「そうよね。当たり前のことよね。考えすぎだったわ」
『あなたは理恵子さんがいたのに私と付き合ったじゃない。君だけだと、抱きしめてくれたわ。また同じことを繰り返すの?』
そんな言葉が、今にも口をついて出てきそうになる。
それをこらえながらうつむいた。
指先が微かに震えた。
信号待ちで車が止まった隙に、拓哉はそんな私の手を握ってきた。
「なんでも話してほしい。君の考えていること全部をね。我慢しないで。受け止めるから」
そう言って私を見つめるその目に、嘘は見出せない。
きらりと光って揺れる瞳を、いっそ信じられたなら。
「俺の彼女がどうとかよりも、俺はむしろ佐伯課長のことが気になるよ。彼は、君と別れることを納得したの?」
「ううん、そんな次元の話じゃないわ。彼を気にする必要なんてない。佐伯さんには恋人がいたの。私を好きなわけじゃなかったのよ」