夢恋・second~その瞳に囚われて~
「そうか。……辛かっただろ」
驚いた顔をしながらも、拓哉はなにも聞こうとはしない。
その心地よさに甘えるように、私は拓哉に身体を寄せた。
なにも言わずに車を発進させながら、拓哉はそんな私の肩を抱く。
ふたりの時間が、途絶えることなくずっとあったかのように、私は彼の胸の音を聞いていた。
肩にあった彼の手が、私の髪をそっと撫でる。
たとえ拓哉の話が本当だったとしても、会社の合併につながる婚約を破棄することはできないだろう。
「拓哉の実家って、なんの会社なの」
ふと思い立ち聞いてみる。
「え?なんのって。うちの会社だよ」
「えっ」
「理恵子の実家の会社と合併したんだ。北陵エクスプレスは俺の父と、理恵子のお父さんの会社だ」
がばっと身体を起こし、彼を見る。
驚きで声が出ない。
「え。知らなかったの?昔ニュースで見たんじゃなかったの?うちの会社だったから、芹香を見つけることができたんだ」
記憶をさかのぼって思い返す。
ニュースで繰り返し耳にしたのは、確かに北陵エクスプレスだったと思いだした。
「そんな……。じゃあ、拓哉が社長になるの?」
「うーん。そうなるのかな。姉がいるから、まだわからないけど。理恵子もいるしな。というか、俺がいると思ったから入社したんじゃないのか?」
「ううん。偶然よ。頭から消えてた」
「なんだ。期待したのに。俺を追いかけてきたのかと思ってたよ。都合のいい勘違いだったな」
むしろ知っていたら、私はここにはいなかっただろう。
理恵子さんと結婚して会社を継ぐ。それは彼が背負う運命。
こんな大きな会社だったとは思わなかった。
急に、拓哉がさらに遠く感じる。
「そんなに驚かなくても、俺はなにも変わらないよ。芹香がいてくれたらそれでいいんだ」
そう言うと、拓哉は再び私を抱き寄せて自分の胸に収めた。
彼を見上げると、視線に気づいた拓哉が私の額にそっとキスを落とす。
「本当にかわいい。ずっと、こうしたかった」
このぬくもりが消えてしまうことをさらに確信しながらも、私はそっと目を閉じた。