夢恋・second~その瞳に囚われて~
「ほう?勘違いだと?俺は確かに見たぞ。今の動きは、よろけただけじゃない」
黒田社長も理恵子に応戦する。
「私たちの婚約は嘘なんかじゃありません。結婚の日取りも決まってるわ」
理恵子は黒田社長をきつく睨む。
「待って。理恵子、その話は……」
俺はそんな彼女を見ながら驚いていた。
確かに、本社に勤めていた頃は、理恵子と顔を合わせる機会は多かった。スポーツインストラクターである彼女は、北陵エクスプレスには入社しなかったが、花木副社長の用事なのか頻繁に会社に顔を出していた。
ごくたまに、一緒に食事に行ったこともある。
だが、それだけだ。
結婚の話などしたことはない。
「分かったら帰ってください。北陵エクスプレスは、あなたの手に渡ることなどないですから」
黒田社長は、余裕のある表情を崩し、ギリギリと歯ぎしりをして理恵子を睨む。
隣に立つ秘書は、眉一つ動かすこともなく、じっと俺たちの様子を見ていた。