夢恋・second~その瞳に囚われて~
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『頑張ろう』
先ほど言われたその言葉に、あの日の記憶が鮮やかによみがえる。
爽やかに笑うその笑顔もあの日のままだ。
いとも簡単に私の心をタイムスリップさせ、引き込んで捕らえる。
私は虚勢を張ることも忘れて彼に見入る。
生まれて初めて男性に見惚れた、あの日と同じ気持ちで。
「じゃあ、業務に就いて。解散」
佐伯さんが言うと皆がバラバラとその場を離れた。
そうだ、私には佐伯さんがいる。
拓哉に心をさらわれたりはしない。
そう思いたい。
「秋田。大抜擢で驚いただろうけど、頑張れよ」
佐伯さんが私の頭をクシャクシャと撫でながら、私の耳に顔を近付けて小声で言う。
「はい」
笑顔で彼を見上げる。
昨日のことは、もういいのかな。
怒ってはいない様子の佐伯さんを見て安心する。
「そこー。いちゃつかないでよー」
萌が私たちに向かって言う。
「ばか。そんなんじゃないよ」
佐伯さんが答えると、近くにいた人たちがクスクスと笑った。
私たちが付き合っていることは、課のほとんどの人が知っている。
私は赤くなりながら向きを変えた。
そのまま席に向かおうとすると、拓哉と目が合った。
驚いたような顔で私を見つめている。
課長と親密な関係だと気が付いたのだろうか。
そう思うと、身体の奥がビクッと揺さぶられるような感覚になった。
だけど、拓哉にどう思われても今さら関係ない。必死でそう思おうとする。
そう。私は今、佐伯さんと真剣に向き合おうとしているの。彼も私をとても大切にしてくれている。
誰にも邪魔されたくなんかない。このまま佐伯さんのことだけを考えていたい。
だからもう、私には構わないで。
心の中でそう呟いて拓哉から目を逸らした。
まとわりつくような彼の視線を振り切るように。