夢恋・second~その瞳に囚われて~
驚く私を見下ろし、微かに笑いながら梨元係長は話し続ける。
「あ、ごめんなさいね。孝之とは、もう十年もの付き合いなのよ。会社には内緒だけどね。この人ね、なかなか落ち着かなくて、結婚もできないのよ。あなたからも少し言ってやってよ。私、待たされすぎよね」
私は唖然としてしまい、なにも言えない。
佐伯さんは、額に手を当てて黙る。
「孝之。もういい加減に、遊ぶ年ではないわ。あなた、またこんな可愛い子を騙すつもりだったのね。私の存在を隠して」
佐伯さんが、顔から手を離し、大きなため息を吐いた。
「春香……。お前は……」
「なに?黙って見過ごせば良かったの?噂なんてあっという間に広がる。物流課にだって、あなたたちの情報は流れてくるのよ」
「あの……。私、あの。すっ……すみませんでした。梨元係長と佐伯課長のこと、知らなくて。あのっ、もうやめますから。もう会いません」
梨元係長と佐伯さんのやり取りを、まるで自分とは全く関係のないドラマでも見ているような気持ちで聞いていた。悲しみなんかは全く感じない。ただ、驚いた。
と同時に、申し訳ない気持ちが溢れてくる。
愛する人に裏切られる辛さを、私は誰よりも知っているはずなのに。
この人はどんな気持ちで、私と佐伯さんの噂を聞いていたのだろう。なにも知らないとはいえ、彼女を傷付けてしまった。
今はただ、謝ることしかできない。彼女の大切な人に、心の傷を癒してもらおうだなんて考えたりして。どう償えばいいのか分からない。