クールな同期が私だけに見せる顔



ぼうっとして、何も手につかない。

省吾のこと考えないようにしても、結果は同じだった。

考えないようにしていても、彼のことが、なんの脈絡もなく頭に浮かぶ。

すぐに思考が停止する。

この繰り返しだ。




「ちゃんと聞いてるの?」


美登里さんの声と共に、オフィスの雑音が耳に飛び込んで来た。

ああ、今、私は会社にいるんだと思った。

私は、美登里さんを見つめる。

省吾は、この人のどこが気に入ったのだろう。

美登里さんは、いつものように完璧なメイクで、上から私を見下ろしている。


「聞いてます」

といい返すのは、ずいぶん無理があった。

「聞いてるようには、見えないわね」

彼女は、私の前の真っ暗になったモニターを見て言う。

「何か用事ですか?」

美登里さんに向かって冷ややかに言う。

こんなふうに、何事もなかったように話しかけて来るの、止めて欲しい。


美登里さんは、入り口の方を見て言う。

「彼、来てたわよ」

「彼って、誰ですか?」

まさか、省吾のこと?


「彼が来たからって、どうだって言うんですか?」


「あら、付き合ってたんじゃないの?彼と。
それなのに、もう、どうでもいいの?」


気が付くと私は、バン!と机をたたいていた。

そして、美登里さんを睨みつける。

「あなたに言われたくないです」


「そう、わかったわ。これ以上言わない。
それより、この間、言ってたことどうなの?会社辞めるって本気?」


「そ、そんなこと、冗談で言うわけないじゃないですか」


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