クールな同期が私だけに見せる顔
数時間後、私は咲良に捕まって、強制的に居酒屋に連れて来られていた。
美登里さんが聞かなかったことにすると言ってたから、黙っておこうと思ったのに。
つい、ぽろっと口に出してしまった。
「はああ?会社辞める!!
いったい、どうしてそんなことになってるのよ」
咲良の怒涛の叫びが店中に響いた。
しまった。
美登里さんに会社辞めるって言ってしまったこと、咲良に何にも話してなかった。
いきなり、爆弾発言で咲良も驚いている。
「咲良、それだけじゃないから。私、明日、もう一度俊介さんと会うの」
「どういうこと?」
「彼、こっちに来てるの。
今日、一緒にお昼を食べてね、こういったの。
『仙台に来るかって』どうしようかな、行ってみようと思って」
休みを取ったから、旅行がてら、折角だから行ってみようってだけなんだけど。
「行ってみようじゃないでしょう。彼氏はどうするの」
「一応、話をしたわ。納得はしてないと思うけど」
旅行に行くことは伝えてない。
だって、省吾、人のこと言えないし。
それに、もとには戻れないなら、省吾に気を使っても仕方ない。
「あのねえ、どうして、急にそうなるのかな。さっぱりわからんわ」
「どうして?咲良って、私が省吾と付き合うのは反対だったでしょう?」
「反対っていうか、お互いに必要としてるんだから、いつかはぶつかるだろうなと思ってたよ」
「まあ、ぶつかったって訳ね」粉砕しちゃったけど。
咲良が、腕組みして胡散臭そうに私を見る。
「いいんじゃないかな。省吾とは合わないところもあったし。
好きだっていう気持ちだけじゃ、どうにもならないこともあるって分かっただろうし」
口に出して見ると、こんなに分かりやすいことだったのだと、驚く。
「妙に、物分かりがいいのは気になるけど。だったら、何で会社辞めんのよ」
「それは、仕方ないよ。私、省吾の顔、まともに見ていられないもん」
「バカじゃないの?それじゃ、俊介さんのとこ行くって選択は、間違ってるじゃないの」