クールな同期が私だけに見せる顔


「私は、普通の生活がしたいの。
平凡な誰でも夢見るような家庭を築いて」

彼の胸の中で言うと、抱きしめた腕にぎゅっと力が入る。

そうしようって言うかわりに、俊介さんは、
私をぎゅっと抱きしめる。

「大丈夫か、歩ける?」

「ん、大丈夫」

だって、相手が何を考えてるんだろうって、
心配しなくていいもの。

「エレベーター来たよ。
晴夏、危なっかしいから、俺につかまって」

「ん、ありがとう」

俊介さんの腕が、さらに力強く腰に巻き付けられ、ピッタリと体を引き寄せられる。

心音が伝わってくるほど近くにいる。

私は、酔ってふらつくから
ドキドキしてるの?

彼に抱きしめられて
心拍数が上がってるの?

どっちなのか、よくわからないまま、
彼の言いなりになっている。

「どうしてかな」

「深く考えるなって。元に戻るだけだよ。
部屋でゆっくり休もう」

「そんなことしたら、眠くなっちゃうわ」

「寝たっていいよ。今夜は、ずっと
君の世話を焼いてあげる」

「そんなの。ダメよ」

「でも、君はもう、省吾のところには
戻らないんだろう?」

「戻らないけど。もう、ご免なの。
何も考えなしに、こんなふうになるのは」

ガクンとして、エレベーターが止まった。
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