クールな同期が私だけに見せる顔


省吾は、私の質問には答えずに、
逆に質問で誤魔化す。

「お前、なにそれ。どうして、びしょ濡れになってるの?」

彼は、濡れた私のエプロンの端っこをつまみながら言う。

「濡れてる?
ああ、これ?今、お皿洗ってたから」

「そんなに、ずぶぬれになって。自分まで洗う必要あるのか?」
不思議そうに見た後で、クスクス笑ってる。

そう言われても仕方がないくらいぬれていた。

「そんなこといいから、早く忘れ物探さなきゃ。何探せばいいの?」

そう言いながら、エプロンだけ外す。

エプロンだけ外しても無駄だった。

下に着ていたものまで、すべてぬれていた。

「探すのは、後でいい。それより、何やってんだよ。早く脱がないと風邪ひくぞ」

彼は、私の目の前まで来る。


「私の世話、焼いてる場合じゃないって。忘れものじゃないの?早く探さないと…………」

私は、必要以上に彼に近づかないように、後退って距離をあける。

「忘れ物なんてない。ここに居るための口実だ。

だから、駅まで行って戻って来たんだ。
このまま、晴夏と朝まで一緒にいたい」

彼が一歩ずつ、距離を詰めてくる。

これ……

冗談じゃないよね?

誘いに乗ったりしたら、バカか、本気にするなって笑ったりしない?

彼は、また近づいてきた。

「晴夏……俺、一人で家に帰りたくない」

お互いの体が、ほとんどくっつきそうなくらいの距離にある。

そっと引き寄せられて、長い指がすっと伸びて来て、私のびしょぬれのシャツを確かめる。

「ちょっと、省吾、ダメだったら。
なに寝ぼけてるのよ。電車、出ちゃうでしょ?」

「どうでもいい。そんなこと。
もう、帰るつもりないし」

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