クールな同期が私だけに見せる顔
「あの、省吾。冗談だったら、早くそう言って」
自分から、今の気持ちをしゃべってしまうのもダメだ。
言葉尻をとらえられて、すぐに彼のペースに持っていかれる。
彼は、黙ったまま私を見ている。
冗談でしょうと水を向ければ、乗ってくると思ったのに。
真剣な顔をして、私に誤魔化すタイミングを与えない。
茶化したり、否定もしない。
何でも聞いてくれと、自信たっぷりな営業マンそのものだ。
彼は表情を崩さないまま言う。
「晴夏、冗談で、こんなこと言わないよ」
彼は、本気らしい。
ふざけるつもりも、否定するつもりもないみたいだ。
っていうことは、マジですか?
本気ってことですか?
省吾、ちょっと待って。
私は、悪い冗談を聞いたみたいに頭を振った。
「あんた、自分の言ってる意味わかってるの?」
「分かってるさ、もちろん。晴夏、そんなことより座ったら?」
彼は、チューハイの缶を一つ渡してくれた。
どうしよう。
何か話をしなきゃ。
黙ってると間が持たない。
「省吾って、自分から好きになった事ってある?」
私は、缶のプルタブを引っ張りながら言う。
間が持たないから、適当に質問しただけなんだけど。
失敗だったみたい。
思っても見ない質問をされて、彼は少し驚いてた。