クールな同期が私だけに見せる顔
「なあ、晴夏。一つ、聞きてもいい?」
「なに?」
「お前、昨日のこと、どこまで覚えてる?」

覚えてるのは、居酒屋で合流したところまで。

その後のことは、覚えていない。
私は、正直に首を横に振った。
「そっか」
返事を聞いて彼は、ほんの少し、がっかりしてるように見えた。

覚えてないって、どうかしてるだろうって言いたいのも分かる。

覚えてないと言うのは…………
昨日の事、認めたくないからだ。

一夜明けた今でも、彼とベッドで寝てたなんて信じたくない。

とにかく、省吾は、楽しそうではない。
彼は不機嫌だ。

「省吾、えっと……」
「何?」
「昨日のこと後悔してるなら、なかったことにしようよ。このこと、他に知ってる人はいないし」
「どうして?」
省吾が睨みつけて来た。やっぱり機嫌悪そう。

「どうして、なかったことにしたいんだ?」

彼は、なぜか離れるどころか、おでこがくっつきそうなほど近くに顔を寄せている。

なぜ、そこまで近づく必要があるのか分からない。
何でもいいけど、離れてよ。

省吾との付き合いも会社に入ってから。

一緒に会社に入った同期として、仲良くしてるけど。

ねえ、なんとかして。
この距離感あり得ないって。

しゃべろうと思って唇を動かすと、
彼の唇に触れそうになる。

今までこんなに近づいて、
省吾の顔を見たことがない。
気を抜くと、唇に触れてしまう。

こんなときに、キスするつもりないから。
私は、なるべく
顎を引いたたままの体勢を保つ。
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