クールな同期が私だけに見せる顔



省吾は、私の家が気に入ったのか、時間があればまっすぐこっちに帰って来るようになった。

本当に遅くなる時以外、仕事に少しでも余裕があると、やって来る。

週に何度も来る。

自分の家に帰らなくて大丈夫なのだろうかと思うくらいに。

「残り物でいい?」今日は、遅くなるから無理かもと言ってきたから、本当に簡単な食事で済ませてしまった。それなのに。

「やっぱり、来ちゃった」と言って笑ってる。

「構わないけど。着替えとかどうしてるの?」

「持ってきてるさ」

「あっ、そう」

シャワーを浴びてさっぱりして、リビングでくつろいでいる。
いつの間にか、Tシャツと短パンだけど、部屋着を持参してる。

「こっちに来いよ」

適当に夏野菜で作ったカレーをテーブルに置いていた。

お皿を置いて立ち去ろうとした私を引き留める。


「省吾、見えないの?お腹減ってるでしょう?早く食べなさい」

冷たいお茶でも持ってこようかと立ち上がった時に、彼に連れ戻された。

「これだけあればいいって」

省吾は、私を横に置きながら、ものすごい勢いで食べ始めた。

食事は、一応不満もなく全部食べてくれる。

食べ終わると、ゴロンと私の膝の上に頭を置く。

「何か飲むもの持ってくる。喉乾いてるでしょう?」

「うん」

「持ってくるから、そこ退いて」

「そこ退いてなんて言うな」

「もう、意味が分からない。バカなの?」

「どうも、そうみたい。俺、おかしいかもしれない」

付き合いだしてから、毎日のように彼の顔を間近で見ている。

家で待ってるのは、もちろん。

省吾は、周りに人がいても、愛情表現することを気にしなくなってきた。


外食する時は、彼も会社のロビーや、近くのコーヒーショップで待つようになった。

会社の誰かに見つかっても、握った手を離さないとか、人前でも隠さなくなった。

顔見知りの女性に、
「沢井さんと付き合ってるのね?」と声をかけられた時もあった。

あんまり大っぴらにしてないから、そんなことなよって、適当に誤魔化したけど。

こんなに、いろんな人に知られてしまっていいのかな。

私は、そうならないように気を付けてるのに。

省吾は、まったく気にしない。
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