クールな同期が私だけに見せる顔
「沢井君なんだって?」
受話器を置いてすぐに、美登里さんが言う。
「省吾?いえ、別に」
美登里さんは、省吾が私に電話をかけてかけたのが気に入らないのだ。
「誤魔化したって駄目よ。声漏れてたんだから」
「たいした内容じゃなかったです。それに、個人的なことですから」
私は老舗筆記具、文具メーカーで
庶務と営業事務の仕事をしている。
私と美登里さんは、国内営業部に属している。
営業部全体の庶務を私が担当して、
美登里さんが営業事務として、
部署の受注業務、入金管理に携わっている。
省吾のような営業の社員の、
アシスタントを美登里さんがしている。
だから、彼女との仕事のかかわりは多い。
私の仕事は、営業所の庶務として、
他部門の社員や関係者と連携を図ったり、
美登里さんがやらないこと、すべてが私の仕事になる。
「沢井君、何か、
あなたに仕事頼んでなかった?」
「いいえ。仕事のことではありませんから。あの……
もし、月次の伝票処理とか大変だったら、美登里さんの分お手伝いしましょうか?」
「いいわ。自分でやるから。そんなことより、仕事に集中してよ」
「はい」