クールな同期が私だけに見せる顔


私はカレンダーを出すのが面倒になって、手元のメモに時間を書き込んでおいた。

あまりにも細かい時間まで書き込むと、私の仕事にも影響してしまう。

書き込むために、気が滅入ってくる。

すっきりしないまま、一日が終わろうとしていた。


省吾は、遅くになって疲れたと言って帰って来た。

省吾は、家に来る方が多くなっていた。

連絡も、こっちに来られない時にわざわざ断ってくるようになった。

玄関先まで顔を出すと、本当に嬉しそうな顔をする。

「いいな。やっぱり。帰ってくると、こうして晴夏にお帰りって言ってもらえるのは」

「そう、そんな些細なことが嬉しいんだ」

「些細なことじゃないさ。そういう細かなところが大事なんだと思う」

「うん、そうだね」

軽くキスをかわすと、彼は酷く汗をかいてるからと言ってエアコンの温度を下げる。


私は、彼の様子を眺めていた。

いつの間にか、私は省吾を通り越して、彼の背後にある壁を見つめてた。

しばらくして、頭をこつんとやられた。

エアコンの冷気に当たってリビングで涼んでいたと思ってた省吾が目の前にいて驚いた。

「何考えてたんだ?」省吾が聞く。

「何って、別に」
説明しようがない。

本当に、ただ気が抜けたように、壁を見つめていたのだ。

「何か考えてただろう?」

「何も考えてないよ。本当だって」

彼は、厳しい表情で言う。

「晴夏が、別にって答えを誤魔化すときは、だいたい、俺に対して都合の悪いことを考えてるはずだ」

「ちょっと、待ってよ省吾ったら。
なにを言い出すのよ。聞かれたらまずいことなんて考えてないって」

「そうなんだ」
まだ疑っている模様。

「だから、何も考えてないって」

「何考えてた?俊介さんのこと考えてた?」

「俊介さん?どうして俊介が出てくるのよ」
突拍子のない発想に笑ってしまった。

「そんなに、変じゃないだろう?」

「ちゃんと、こうして新しい恋人が目の前にいるのに、どうして別の人のこと考えるのよ」

「そうだといいけど」

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