フラワーガーデン【アリシア編】
「アリシア!?」

エドは私に気が付き、降りたばかりの汽車へと駆け寄って来る。

汽車は既にドアを閉ざし、ゆっくりと走り出す。

「下りなさい!アリシア!!」

慌てて窓の下に深く体を潜めて隠れていたけれど、エドの声に意を決した私は立ち上がり、窓を開ける。

「ごめんなさい、エド!でも私……」

「アリシア!!」

エドが懸命に叫んで追い駆けて来る。

だけど、その声の殆どが汽車の騒音に掻き消され、やがてはエドの姿をも曲がる車列の向こう側に消し去っていった。

ぽつんと残されたひとつの翳が淋しそうに佇んでいるのが見える。

私はエドの昨夜の寝顔を思い出し、胸が締め付けられそうになる。

だけど、私は優しいエドの気持ちに応えられない。

「ごめんなさい、エド……」

謝りつつも、徐々に速度を上げていく汽車の中で不安が押し寄せてくる。

あのエドのことだわ。

きっと、もう次の駅には連絡が行っていて、私は着くなり屋敷に強制送還されるかもしれない。

そんなの嫌。

だけど、どうしたらいいの?

私は、ふと窓の外に目をやると、手をポン!と打つ。

「……そうだ。これしかないわ!」


< 166 / 269 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop