フラワーガーデン【アリシア編】

第3節 ピラニアはピラニア

あの日、ピラニアの群れに一瞬たじろいでいたアリシアだったが、あっという間に馴染んだ上、すっかり女達のハートを鷲掴みにしてしまっていた。


「きゃーっ!!アルバートォ~!こっち向いて~!!」


黄色い声にアリシアは愛想良く手を振って答える。

僕はアリシアの襟を引っ掴むと、慌てて奥の部屋へと引っ込んだ。


「どうしたの?先生」

「どうしたの……って。こっちが聞きたいよ。アルバートって一体……」


アリシアは首を竦めると、髪を掻き揚げ、ネクタイを緩める。


え?!ネクタイ??

「ちょっと待って!その格好は!?」

まるで、バーテンダーだ。


「お姉さん達、どうやら私のこと、男だと思ってるみたいだから。
それにその方が、警官にもエドの追っ手にも見つかりにくいし……。
アマンダにお願いして、お店の男性用の服を貸してもらったの」

ナルホド、と頷きつつもアリシアがノリノリなのが一抹の不安だ。


「Gパンとかズボンとか一度、履いてみたかったの♪」


嬉しそうにクルリと回る男装のアリシアを見て、胸がときめくとは……

僕もかなり重症だ。


僕達が話している時、扉が開き、アマンダが顔を覗かせた。


「あたし~、これから立ちんぼするから」

「私もする!!!!」

「こらこら」


立ちんぼの意味も知らないアリシアの襟首を掴むと、彼女はジタバタと抵抗した。


「私も、何か手伝いたいんだもの!」

「じゃ~、このコをよろしくぅ~」


僕の狼狽振りにクスリと笑いながら、アマンダは僕達にエリーを押し付けて職場へと出掛けて行った。

「ま、いいわ。じゃ、パパと一緒に遊ぶ?」

アリシアが僕を指差して、にっこりとエリーに微笑み掛ける。

「うん!」

僕に向けられるアリシアの疑いの目は一層細くなっていく。

「だから、僕はエリーの父親じゃないってば」

「先生が家に来たのが、一年位前のことだから……計算は合うわ」

「何の計算!!僕だって、彼女に出会ったばかりなのに!
たった1日で、彼女を孕ませて、いきなり2歳児の子持ちなんて言ったら、現代のバイオテクノロジーも真っ青だ!」

「そうかしら?」


アリシアは膨れっ面でエリーを抱っこすると、抗議に満ちた目で僕を一瞥した。


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