フラワーガーデン【アリシア編】

アリシアは、目を逸らす。
アリシアは、真っ赤になる。
アリシアは、口篭もる。
アリシアは、……


気持ちをなんとか浮上させようと、自転車を押しながらアリシアを主語にして、ぼぉっと頭の中で文法を組み立てては、溜息を吐く。

はは。

何だかアリシアの行動だけを考えてみると、彼女の行動はまるで僕に恋でもしているみたいだ。


え？！

…………恋？



その時、突然……

そう、正に突然、僕のこの馬鹿げた考えが頭に浮かび上がり、アリシアの方をクルリと振り向く。


アリシアは、目を逸らし、真っ赤になり、「ど、どうしたの？先生……」と口篭もる。


そして、そのまま下を向いて、僕の後ろから旅の荷物を積んだ自転車をカラカラと押していた。



僕達がウエストポイントに入ったのは、その日の夕暮れ時だった。


「シングルを２部屋とのご希望ですが、あいにく……部屋はこちらのツインの１部屋しか空いておりませんで……」


週末にウエストポイントで行事が行われるらしく、この時期は週末までどのホテルも満室だとフロントのホテルマンが申し訳なさそうに答える。


「ツイン……」


アリシアがボソリと呟く。

「君が泊まるといい。僕は近くに野営するから」

「そんな！それだったら私が……。先生だって疲れて……」

「女の子一人を野宿させるわけにはいかないよ」


いつまでも、話が決まらない僕たちの背後のホテルのドアが開き、二人連れが宿を求めて入って来た。


「申し訳ございません、お客様。もし、お決まりにならないようでしたら、次の方のご案内を……」

「……泊まるわ」

「えっ！？アリシア……」

「ツインを一部屋お願いします」


こうして僕たちはハドソン川が美しく見えるという町の小さなホテルに投宿し、久し振りのベッドに横になり体を思いっきり伸ばした。