フラワーガーデン【アリシア編】
一気に距離を詰められてしまった私は気まずさに下を俯く。


「呼べないわ……あなたを『エド』なんて……」


「今、呼んでくれた」


「あなたねぇ……!」


なんてお気楽な人なの?


膨れる私にエドが嬉しそうに笑みを浮かべ、その先に歩を進める。


「ああ、ここだ」


途中で折れた木の枝の先が、雨風に晒され、丸みを帯びている。


「ハウザーに腕を噛まれて慌てて登ったものの枝が折れてしまってね」


ハウザーって、あのハウザー?

屋敷で飼っている白い大型犬のことしか思いつかないけど……。

18年前なんてありえない。


「ハウザーはまだ5歳位だわ」

「今のハウザーはハウザーJr.で3代目です。
1代目のヤツは凶暴で手強くてね。
で、僕はオリヴィアに横恋慕していたハウザーに、忍び込む度に追いまわされたんです。
今にして思えば、この腕の傷も男と男の真剣勝負から出来た勲章のようなものです」


まるで少年のように「えっへん!」と言う顔をして噛まれた痕を自慢気に見せるエドを見て、私はまた笑い転げてしまう。


母さんがこの人のことを好きだったのが、何だか少しだけ分かったような気がする。


私を見つめるエドの熱い眼差しに気づき、慌てて目を逸らす。



< 78 / 269 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop