仮空
1
世界がどんなに綺麗に映る君のメガネだって君の瞳が捉えるのはいつだって背後の景色で

僕には君の目を見ることはできない。


明日の予定とか週末の予定とか

全部、全部が流れ作業になってしまって

夜の公園とか真夜中の商店街に、君との思い出を見つける事が難しくなってしまったよ。


ねえ、

大切なものっていくつある?

僕にはわからないんだ。


君の大切なものを一つちょうだい。

僕はそれだけはずっと大切にできると思うから。


そうやって、君から零れ落ちる言葉の一つ一つ汲み取って、すくいあげて、心に染み込ませることができるから。


朝になる頃には魔法も解けて、

僕の憂鬱が君を包んでしまうから

明日の朝は少し早く起きて

砂糖のたくさん入った温かいカフェオレを作ってあげよう。


君の朝は僕の朝より30分程早いから

君がメイクを済ませる前に、短い君の朝を少しでも延ばしてあげよう。


ねえ、姿の見えない君

本当は存在しなかった君、

君は僕の中でどんどん膨らんでいくよ。

僕が愛しているのは恋で

僕が恋しているのは愛で

手を伸ばすよ。


晴れた日にはイヤフォンを付けたまま君の吐息が聞こえてきて

ずいぶんと寒くなってしまったけれど、それすら愛おしく感じる時間で

君にしか作れない時間で


愛しているとか恋をしているとか

忘れてしまうほどそばにいて


手袋を付けて、マフラーを巻いて

君の香りを全部全部吸い込むんだ。


ねえ、愛おしい君。


この星空をプレゼントしたかったよ。

空気が澄んで、遠くまで見通せる空だから君に全部見て欲しい。


ねえ、君は笑えているかな

消えない傷を二人で背負った君。


君を失ったとか

君のいない世界なんて

とか

そんな言葉も全部ただの言葉だったのに。


深い深い森の中で

周りには何もなくて誰もいなくて

そんなところに君がただ、存在するような、

君には不思議な安心感があったよ。

けれど、どこか怖いところもあったんだ。




夜になって寂しくなって

ついつい携帯電話をひらいて君の連絡先を眺めてみる


見慣れた文字列と不思議な英数字の羅列


僕と君にしかわからない言葉の羅列

夜と昼が入れ替わった生活をしているものだから君との小さな時間を大切にしたいんだ


きっと眠りについて目が覚めて

また日常に戻ったのならば憂鬱が勝りこの気持ちも濁ってしまうから、
君に一つ一つ伝えていきたいんだ。


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