ラヴ・ソングは聴かない
私は相当怪訝な表情をしていただろうと思う。だって彼女が何を言いたいのかまるでわからない。そんなこと知らないと言い捨ててこの場を去ってしまいたかった。だけれどそれができなかったのは、彼女が今にも倒れてしまいそうなほどに頼りない足取りをしていたからということと、こんなに必死なのだからどうにか彼女の問いに答えてあげなくてはいけないという使命感のようなものが私の中に芽生えたから。だから私は慎重に言葉を探しながら口を開いた。
「貴女にそれが必要なくなったから」
自分が思うよりもしっかりとした形をもってその言葉は私と彼女の間に落ちた。
「……じゃ、ないかな」
濁すように付け足して彼女の反応を窺う。彼女は変わらず愛らしい瞳で私を見つめていた。そうかと思うとその目から透明な雫が零れて流れた。私はぎょっとする。
「恋ってこんなに、つらいのね」
彼女のしているのが叶わない恋なのだということは、恋愛経験の浅い私でも分かった。彼女は言葉を続ける。
「好きになれば、なるほどに。愛の言葉なんて陳腐になっていくわ」
細く白い指で涙を拭ってから彼女はもう一度私を見つめ、口を開いた。
「……貴女もそうでしょう?」
他の女の子達が入ってきて、開きかけた私の口はすぐに閉じられた。心臓がうるさい。彼女の足がすっと動いて、私との距離を一歩詰めた。彼女の声が耳元で響く。
「渡したく、ないの」
卑怯だ、と思った。彼女もそれを理解していた。だからこそ最後に彼女は「ごめんなさい」と囁いて私の横を通り過ぎたのだ。だけれども私はこの宣戦布告に嫌悪感を抱かなかった。なぜなら、彼女が私を──